弧兎

 

 ウサギがただ一人きりで満月を見ている

 冬半ばの十五夜御月様だ

 ただ一人きりで眺めているのは友達がいないからじゃない

 一人きりでも寂しいなんて思った事は無い

 ウサギの目が赤いのは魂の色

 自然界の弱者が持つただ一つの誇り

 獅子も猿も狐も人も

 捕食者はいつだって私達を付け狙う

 良いだろう私はここだ

 どれだけ雪で白くても

 この赤い目が見えるだろう

 さあ捕まえて見せろ 鬼さんこちら

 ‥ウサギの耳が長いのは

 仲間の声を聞くため 捕食された仲間の最後の声を

 捕まってしまった 何て情けない

 骨の砕ける音が聞こえるだろう 

 こいつらはいつだって容赦が無い

 こうはなりたくないだろう

 そしてこうはならないでくれ どうかお前だけでも

 そら逃げろ 遠く遠く 遥か遠くまで

 あぁ、今日はなんて 月の綺麗な夜だろうね

 ウサギが誰よりも弱いのは

 誰よりも不器用で優しく、そして誇り高いから

 食いつ食われつはもう飽きた お前ら勝手にやってくれ

 他の動物の肉を喰らってでも生き残り強者で在ろうとする

 

 その圧倒的なまでの傲岸不遜 恐れ入るよ

 喰らいたきゃ喰らえ 私は草でも食んでいるから

 

 弱肉強食大いに結構 弱い者が狙われ強い者が食う

 自然の摂理だ

 しかし一つだけ聞きたい事がある

 生ける者の命を奪ってまで

 生ける者の肉を喰らい生きていく

 そうまでして

 あんたらは一体何を目指して生きてると言うんだ?

 冬の夜明け 白い雪の中

 ウサギが一人きりで十六夜の月を見る

 夜明けの十六夜 有明の月

 一人きりで見ているのは友達がいないからじゃない

 友達はいるさ 今も何処かで同じ月を見ている

 昼も夜も関係無いが また一日が始まるのさ

 喰らいたきゃ喰らえ 鬼さんこちら

 この赤い目が見えるだろう

 冬の夜明け 沈まり切らない月の下 白く染まる雪の景色

 この月をまた見る夜は在るのだろうか 儚い一日の上を

 ウサギが静かに疾りだす

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